Contents【前編】あなたは守れている?~下請法違反にならないためのCHECK POINT~
(1) ・・・ただの行政指導と思ったら取引打切りにネットでも炎上
自動車部品製造会社A社の経営者aさんの話です。厳しい経営状況の中で、下請会社にも了解をもらって一時的に下請代金の減額と繰り延べ払いを行っていたところ下請法違反の疑いで公正取引委員会の調査を受けることになってしまった。
同業者に相談したら「独禁法(=独占禁止法)違反なら巨額の課徴金の支払とか大変なことだけど、下請法は罰則のない『行政指導』だから、よく事情を話せば理解してくれるだろう」とアドバイスされました。しかし、あっという間に調査手続は進み、減額した分全額を直ちに支払うことと、それに対する年14.6%もの遅延損害金を支払うよう勧告されました。従わない場合は、独禁法違反になることもあるとのことです。
そればかりか公取のHPでA社の社名とともに今回の勧告内容が公開され、取引先の大手業者らからはコンプライアンス上、もうA社と取引できないと取引の停止を通告され、インターネットでもブラック企業として炎上状態となってしまった。
苦境を脱するために下請けの同意も得たうえで進めていたので、決して「下請けいじめ」をしているつもりはなかったのに…とaさんは肩を落としていました。
(2) 下請法に違反するとどうなる (単なる勧告=行政指導では終わらない)
aさんが大変なことになったのは「下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)という法律」に違反したためです。とても形式的な法律で、当事者の資本金の額と取引種類によって適用の有無が決まり、親事業者になると、発注書面の交付義務などの4つの義務と、下請代金の減額の禁止などの11の禁止事項が課されることになります。それに違反すると次のような結果に結びつきます。
①公正取引委員会による勧告・指導
親事業者が下請法に違反をすると、公正取引委員会から勧告や指導がなされます。違反の内容によっては、不当に減額をした下請代金や支払を遅延した代金にかかる遅延利息などを下請事業者へ支払うよう勧告がなされる場合もあります。
②罰金が課される場合もある
下請法には罰則がないといわれますが、正確ではありません。親事業者が必要な書類を交付していなかった場合や、公正取引委員会の必要な検査を拒んだ場合などには、50万円以下の罰金が科される場合があります。この罰金は、当該違反行為をした個人のみならず、所属する会社にも科されます。
③公正取引委員会のウェブサイトで公表される
実質的には、これが一番キツイかもしれません。コンプライアンスがしっかりとした企業であれば、下請法違反の会社との取引を打ち切ることも考えられます。またネットやSNSなどの非難・中傷に晒されることもあり得る事です。このような厳しい社会的制裁を受ける現実的リスクがあります。
ということで下請法の内容を理解しておくことは大切なことです。
(1) 親事業者としての優越的な地位を濫用してはならないこと
親事業者と下請事業者のチカラの優劣が顕著なのが下請関係です。親事業者には独占禁止法の優越的地位の濫用が禁止されます。しかし、その手続には手間と時間がかかります・・・。そこで下請問題を簡易・迅速に救済し、もって親事業者と下請事業者の公正な競争を確保するためのツールとして下請法は作られました。
(2) ここが怖い下請法~ 簡易・迅速の意味するもの
簡易・迅速ということは形式的・画一的処理が中心となります。たとえ下請事業者の承諾があろうとも、また親事業者に気の毒な個別事情があろうとも関係なく、形式的かつスピーディーに違反かどうか判断さます。下請事業者の不利益の有無については、書面や客観的状況や数値を中心に形式的に審査され、不明の場合は、下請事業者有利に推定される傾向があります。
下請法は、下請関係すべてに適用されるわけではありません。親事業者の優越が濫用されるリスクの高い下請関係にのみ適用されます。また簡易迅速をモットーとするのでその適用基準は、形式的・機械的に決まります。①優越的な支配がおこりがちな特定の委託契約(適用される取引基準)と②優越的な支配につながりやすい資本金の差(資本基準)という基準を二つともクリアしたときにはじめて下請法の適用範囲に入ります。
(1) 下請法の取引基準にあたるか(取引類型基準)
ア 4つの「委託」取引 ~なぜ「委託」なのか
下請法の適用のある取引には、①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託の4つがあります。これらに共通するのはズバリ「委託取引」です。 「委託」とは、親事業者が発注する物品、サービス等の設計、仕様内容を定めて指定することを本質とします。規格、品質、性能、デザインなどを親事業者が指定する作業をいいます。例えば市販の既製品を納品する場合と比べると、委託は、親事業者がその仕様を決めるので、作業内容が過重で価格に見合わないものになる、反対に仕様が不明確で不明なため後になって親業者の考えていた仕様と違うから成果物を受取らない、返品する、代金を支払わない、減額する、などなど・・・親事業者が優越的な地位を濫用した下請事業者が被害を受けがちです。これが「委託」のリスクです。
イ 基準となる取引4類型
1.製造委託
製造委託とは、物品や半製品、部品、原材料、金型などの製造を委託する契約のことです。例えば、販売するための製品の製造を委託したり、製品の製造業者が必要な金型や原材料などの製造を委託したりする契約です。”ものづくり”の主要な部分をカバーする取引形態です。
2.修理委託
修理委託とは、事業者が業務として物品の修理を委託する契約です。例えば、自社で使用する機械の修理を業務として行っているものを他の業者に委託したり、修理を請け負った業者がさらに他の業者に委託したりする場合です。
3.情報成果物の作成委託
情報成果物とは、コンピュータープログラムや映画、放送番組、映像、音声、文字・図形のデザインなどのことをいいます。情報成果物の作成委託とは、これら情報成果物を業務として扱っている事業者が、情報成果物の作成を他の事業者に委託する契約です。
4.役務の提供委託
役務の提供委託とは、事業者が業務として行っている役務(サービス)の提供の全部または一部を委託する契約です。具体的には、運送、物品の倉庫における保管、情報処理などのサービスの委託です。例えば、トラックの運送サービスを行っている会社が、運行の一部を別の運送会社に委託するような契約です。
なお、建設業者が行う建設工事については建設業法が適用され、下請法の適用はありません。
※要注意!!役務提供委託で注意すべき「自家受」の例外
役務とはサービスのことで、法律上は特にその範囲に制限がないため、ありとあらゆるサービスが該当します。この役務提供委託については、他の3つの取引と大きな違いがあります。それは、自ら用いる役務であれば、それを他の事業者に委託する行為は役務提供委託には該当しないということです。
例えばホテル業者が、自社ホテルのベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること、 工作機械製造業者が、「自社」工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託することなどは、自らのため=「自家受」なので下請法の対象とはなりません。
(2) 資本基準
本来、独禁法では「優越的地位」にある親事業者が念頭におかれていますが、簡易・迅速を生命とする下請法では、資本金の額の多い方が「親事業者」、少ない方(あるいは個人)の方が「下請事業者」と形式的かつ機械的に判断されることとなります。
取引類型と資本金基準に合致すると下請法の次の義務と禁止事項を守らなくてはなりません。ここが、下請法の中心となる事項です。
(1) 親事業者に対する4つの「義務」
(2) 罰則付きで求められる書面作成交付義務に注意
親事業者は、発注に際して、下請事業者に交付しなければならない書面をいいます。このような親事業者の書面の交付義務が下請法3条に定められていることから、一般的に「3条書面」と呼ばれています。前記のように親事業者が作業内容を専決する「委託」の場合、作業の内容や過酷なものや不明確なものになり、その結果下請事業者が満足な下請代金の支払いを得られなくなることを防ぐのがねらいです。
親事業者が3条書面を交付しなかった場合は、 50万円以下の罰金が科せられます(下請法10条1項)。必要記載事項のうち、正当な理由によりその内容が定められず記載できない事項がある場合は、ひとまずそれ以外の必要記載事項を記載した書面を直ちに交付します。その上で、内容が定まり次第、直ちに、記載できなかった事項につき記載した書面を交付することも可能です。
3条書面記載事項
②製造委託等をした日、下請事業者の給付(または役務)の内容、給付を受領する期日・場所
③下請事業者の給付の内容について検査を完了する期日
④下請代金の額、支払期日
⑤手形支払い場合には、手形の金額・満期
⑥下請代金の全部または一部について、債権譲渡担保方式・ファクタリング方式・並存的債務引受方式により、金融機関から下請代金相当額の貸付または支払いを受けることができる場合には、次に掲げる事項
(i)金融機関の名称(ii)金融機関から貸付、支払いを受けられる金額(iii)金融機関に支払う期日
⑦下請代金の全部または一部について、親事業者および下請事業者が電子記録債権の発生記録をし、または譲渡記録をする場合には、次に掲げる事項
(i)電子記録債権の金額(ii)電子記録債権の支払期日
書面化と記録をおこたらず、公取の形式的な審査にも十分に耐えられるように委託関係の事務・手続を明確なものにしておくことが必要です。
(2) 禁止行為
勧告数では、下請代金減額の事例が圧倒的に多いです。今後は不景気・不況期には、買いたたきの禁止(第 4 条第 1 項第 5 号)が増加する傾向が予想されます。
① 代金減額の禁止(勧告数1位)
親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額することは禁止されています。振込手数料の差し引きはもちろん、協賛金、システム料、手数料などの名目で下請にメリットのない費用の差し引きを行って減額に該当するとされる事例が頻出しています。
② 不当な経済的な利益の提供の禁止(勧告数2位)
親事業者が、下請事業者に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害することは禁止されています。
③ 返品の禁止(勧告数3位)
親事業者は下請事業者から納入された物品等を受領した後に、その物品等に不適合や瑕疵があるなど明らかに下請事業者に責任がある場合において、受領後速やかに不良品を返品するのは問題ありませんが、それ以外の場合に受領後に返品することはできません。
④ 買いたたき (今後の増加の危険)
原材料の高騰などにともなって今後増加してくる可能性が高いです。親事業者が発注に際して下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは「買いたたき」とされ、禁止されています。
・上から目線の一方的決定を避け、「協議」を重ねよう
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1993年弁護士登録。
中田・松村法律事務所パートナー弁護士。
企業法務、一般民事、国際海上・航空運送事件を中心に取り組むかたわらで、法科大学院、大学、企業セミナーで教鞭をとる。現在までおよそ20年間、中小企業かけこみ寺本部で下請関係の法律相談を担当している。
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