Contents【前編】貴社のサイトは大丈夫?ダークパターンで信用を失わないために
近年、ウェブサイトやアプリ上で、消費者の意図しない行動を促し、企業側に有利に誘導する「ダークパターン」と呼ばれる設計手法が問題視されています。成果を追求するなかで、知らず知らずのうちにこうした手法を取り入れてしまうケースも見受けられますが、結果として消費者の信頼を損ない、企業にとってはビジネス上のリスクとなるおそれがあります。本コラムでは、前編・後編に分けてダークパターンの概要と具体的な類型、消費者被害の状況、法規制の動向を踏まえながら、企業が取るべき対応策について幅広く解説します。
目次
- インターネット上に潜む罠 ― 「ダークパターン」
- ダークパターンの類型と具体例
- クッキーバナーでも使われるダークパターン
- ダークパターンによる消費者被害の状況
- ダークパターンが使われる背景
- ダークパターンに対する法規制の状況
- 貴社は大丈夫?ダークパターンはビジネスリスク
- ダークパターンを避けるための対策
- おわりに
※6~9の後編は、こちらからご覧ください
1.インターネット上に潜む罠 ― 「ダークパターン」
いまやスマホやPCは、子どもからお年寄りまで、毎日の生活に欠かせない存在。EC(電子商取引)も右肩上がりで、日本国内のBtoC‑EC市場は2023年時点で約24.8兆円に達し、前年比9.2%増と、成長が止まりません(図1) 。
(経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」より。)
その一方で、この成長の影に潜むのが「ダークパターン」という巧妙な罠です。たとえば、「今すぐ購入」ボタンや予めチェックが入っているチェックボックスは、一見ユーザーを助けるように見せかけながら、実際には意図的に誤誘導を狙って設計されている場合があります。広告クリック率やコンバージョン率を上げたい企業の思惑が、知らぬ間に消費者の選択の自由を奪っているのです。また、すんなり「登録完了」できても、解除や解約にはわざと「面倒くさく」してしまう。こうした手法も、ダークパターンの一つです。
「ダークパターン」という言葉は、2010年にイギリスのUXデザイナー、Harry Brignull氏によって生まれました。Brignull氏が「darkpatterns.org」というサイトを立ち上げ、“利用者の意図に反する操作を誘導するインターフェースのトリック”として広めたのが始まりです。
2.ダークパターンの類型と具体例
近年、専門家や消費者保護・データ保護当局による調査・研究を通じて、「ダークパターン」の体系的な整理が進んでいます。OECD(経済協力開発機構)ではダークパターンを7つの主要なカテゴリーに整理し、さらに24の細分類を行っています(図2)。
| カテゴリー | 類型 | 例 |
|---|---|---|
| 1. 行為の強制 | 登録の強制 | 登録を強制される又は登録が必要だと誤解させられる |
| 開示の強制 | だまされて又は強制されて、望ましい範囲を超えて個人情報を共有してしまう | |
| アドレス帳吸い上げ | 既存のユーザーを操って、他のユーザーの情報を引き出す | |
| ゲーミフィケーション | サービスの一定の機能が、サービスを繰り返し利用することでしか獲得できない | |
| 2. インターフェース干渉 | 隠された情報 | 重要な情報が視覚的に見えにくいよう隠されている |
| 偽の階層構造 | 企業が望む設定や製品バージョンに視覚的な優位性が与えられている | |
| 事前選択 | 企業が望むオプションがデフォルトで選択されている | |
| 誤解を招く価格表示 | 誤解を招く又は虚偽の参照価格からの割引価格という形で価格を表示 | |
| ひっかけの質問 | 意図的に誤解を招くような設問(二重否定等) | |
| 偽造広告 | 広告だと明確に分からないものをクリックさせる | |
| 恥の植え付け | 消費者の感情を煽り、操り、消費者に特定の選択肢を選ばせる | |
| 3. 執拗な繰り返し | 執拗な繰り返し | 企業が望むことを行うよう、繰り返し要請する |
| 4. 妨害 | 解約しにくい | 登録解除やオプトアウトを難しくする |
| 価格比較困難 | 価格比較を意図的に難しくする | |
| 不滅アカウント | アカウント削除を困難又は不可能にする | |
| 中間通貨 | 直接の価格表示ではなく、特殊なポイントや仮想の通貨で購入させる | |
| 5. こっそり | こっそりカートへ | 意図しないアイテムを自動的にカートに追加 |
| 隠れたコスト | 購入直前に隠れた手数料を追加 | |
| 隠れた定期購入 | 1回限りの購入に見せかけて、定期購読の契約に目立たずに加入させる | |
| 釣り餌と交換 | 当初宣伝していた商品、又は価格と異なるものを提案 | |
| 6. 社会的証明 | アクティビティメッセージ | 今現在、○人のユーザーが見ています、といった他の消費者の行動についての表示 |
| 嘘の口コミ | ユーザーレビューを誇張して、又は嘘の表示 | |
| 7. 緊急性 | 在庫僅か | 在庫の数が限られていること、人気であることの表示 |
| カウントダウンタイマー | オファーや割引について、まもなく期限が切れる表示 |
図2:OECDが提唱する24類型
代表的なダークパターンとしては、利用者の意図に反して定期購入に誘導する設計「隠された定期購入」や、望んでいないオプションなどの選択を目立たない形で設定する「こっそり」、解約手続きを複雑にして意図的に継続利用を促す「解約しにくい」手法、「在庫僅か」といった嘘または誇張された表示によって利用者を焦らせて購買を急がせるものなどが挙げられます。また、これらの手法は単独で用いられることは稀で、実際のケースでは、複数のダークパターンが相互に組み合わされて設計されていることが多いです。
ダークパターンの具体例:
①「隠された定期購入」
②「こっそり」
③「解約しにくい」
④「在庫僅か」
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事務局長 石村 卓也
株式会社インターネットイニシアティブ ビジネスリスクコンサルティング本部ビジネスリスクコンサルティング部 副部長。外資系IT企業で営業・マーケティングを経験後、2007年に渡米。現地SIerで多数のITインフラ整備やセキュリティ案件を統括し、ニューヨーク州弁護士資格も取得。2020年1月から現職。企業のマーケティング部門及び法務・コンプライアンス部門の両方の視点から、プライバシー保護やダークパターン対策への具体的なアドバイスを提供。
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